IoTの基本コンセプトと「未来予想図」:IHS Industrial IoT Insight(1)(3/3 ページ)
今後の製造業の発展に向けて必要不可欠とみられているIoT(モノのインターネット)。本連載では、IoTの現在地を確認するとともに、産業別のIoT活用の方向性を提示していく。第1回は、IoTの基本コンセプトについて整理するとともに、代表的な活用用途である「スマートシティ」と「スマート工場」の海外と日本の状況を紹介する。
スマート工場
日本のGDPにおける製造業の比率は、低下したとはいえいまだ20%近い。波及効果も含めると、製造業が日本の基幹産業であることは確かだ。このため、モノづくりをスマート化するスマート工場は、日本におけるIoTのもう1つの注目分野となっている。スマート工場については、米国ではGEなどが推し進めるインダストリアルインターネット(Industrial Internet)、ドイツのインダストリー4.0が日本と比べられることが多いが、日本の製造業のIoT化にはよくも悪くも特徴的な点がみられる。
特徴1:IoTを日々のカイゼンに活用する傾向
日本の製造業におけるIoT活用事例を見ていると、生産ライン、製造物、原材料から得られるビッグデータを分析し、SCMの最適化や生産効率化、品質向上といった日々の改善活動につなげるといったケースが多い。
一方、欧米ではこれらのデータ解析をプラットフォーム化して外部に販売したり、自社の事業拡大に活用したりするなど、新たなビジネスにつなげようとしている。
特徴2:リアルからリアルへ
IoTだけでなくクラウドサービス大国でもある米国では、GEの「Predix」のように工場や製品から取得されたデータをクラウドに上げ、人工知能により解析し、最適化した結果を現場に指示として出すといった、ネットからリアルに展開する製造業のIoTプラットフォームとして拡大している。
ドイツのインダストリー4.0においても、SAPは製造業のデータ解析を多様な用途に利用できるプラットフォームとして拡大している。いわば、ネットからリアル、あるいはリアルからネットに付加価値が提供されるモデルといえる。
これに対して日本では、機械から取得されたデータやSCM情報を分析することで、個々の現場での作業に役立てるといった活用が多くみられる。これらはいずれも同じように見えるが、大きな違いがある。日本の製造業のIoTはリアル(現場)からリアル(現場)に付加価値が展開されているという点で、会社の外の世界とのつながりが薄い点が特徴的といえる。
セキュリティやコンプライアンスなどの制約で、日本のIoTは自社内で帰結するケースが多いと推測されるが、オープンプラットフォーム化が進む米国や、サプライヤーまで巻き込んだドイツのデジタルファクトリーに比べると、日本のスマート工場は内向きで拡張性に欠けるようにも見える。
いささか堅苦しい内容になってしまった。IoTの本質に話を戻すと、
- IoT化は世界的に進んでおり、端末だけでなくインフラ/サービスといったさまざまな事業者がレイヤーを超えた付加価値の提供をしようとしている
- 日本のIoTは進んでいるものの、いまだ「内輪」での利活用が多く、付加価値を上げるには「外の世界」との連携が必要
という2点が今後の成長へのヒントになりそうだ。
お知らせ
連載を執筆するIHS Markit Technology主催のセミナー「IHSテクノロジーフォーラム 2016」が2016年11月29日、東京コンファレンスセンター・品川で開催されます。IHS Markit Technologyの国内アナリストが一斉に登壇し、本連載のテーマでもある「IoT」が国内電機・電子、自動車業界などに及ぼす「広大な影響」と「新たな商機」を集中解説します。詳しくは、セミナーWebサイトをご覧ください。
プロフィール
大庭 光恵(おおば みつえ)
1999年〜ドイツ証券、クレディ・リヨネ証券で産業用エレクトロニクス担当アナリストを担当。その後アセットマネジメント会社にて電子機器、部品、材料、ITサービスをアナリスト/ファンドマネージャーを担当。2012年〜現職、IHS Markit Technologyのアナリストとして、市場分析/ビジネス分析を手掛ける。
https://technology.ihs.com/
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