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イノベーションを生み出す「デザイン思考」とはいまさら聞けないデザイン思考入門(前編)(1/3 ページ)

現在、日本の製造業で求めらているイノベーションを生み出す上で重要な役割を果たすといわれているのが「デザイン思考」だ。本稿では、デザイン思考が求められている理由、デザイン思考の歴史、デザイン思考と従来型の思考との違いについて解説する。

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デザイン思考とイノベーションの必要性

 最初に「デザインシンキング(Design Thinking、デザイン思考)」とは何であるかを簡単にまとめておこう。

 デザイン思考はもともと、建築や芸術分野のデザイナーが、新たな価値を創造する際に用いる認知的活動を指す言葉だった。

 ビジネスにデザイン思考が持ち込まれたのは、2000年代前半〜中盤のころだ。その歴史は後述するが、大枠では「イノベーションを実現する方法論を体系化したマニュアル」と捉えられている。デザイン思考は「ヒューマン・セントリック」「ユーザー視点」「潜在的価値の発掘」といった概念を包含している。つまり、ユーザー視点でニーズを発見し、既存の製品やサービスとは異なる新たな価値を備えたものを提供するという考え方だ。そして、ここで示される「新たな価値」とは、市場を一変させるようなディスラプティブ(破壊的)な製品/サービスを指す。

従来の技術を磨いても破壊的なイノベーションは起こせない
既存の技術やビジネスモデルを磨いても、破壊的なイノベーションは生み出せない(クリックで拡大) 出典:SAPジャパン

 代表的なものといわれるのが、配車サービスのウーバー(Uber)や民泊仲介サービスのAirbnb(エアービーアンドビー)だ。モバイルアプリで需要と供給をマッチングさせる「プラットフォーマー」として登場した彼らは、既存のタクシー市場やホテル業界のビジネスモデルを根底から覆した。現在、ウーバーの時価総額は680億米ドル(約7兆5000億円)、エアービーアンドビーは300億米ドル程度(約3兆3000億円)とされる。日本で時価総額がウーバーを超える企業は、数社にすぎない。

 さらに、日本の基幹産業である製造業や自動車産業にも、イノベーションの波は到来している。グーグル(Google)など、IT企業はこぞってコネクテッドカーやIoT(モノのインターネット)を活用したスマート家電の開発に参入。そのスピード感は既存の製造企業では到底太刀打ちできないものだ。

破壊的なイノベーションを起こしているさまざまな企業
破壊的なイノベーションを起こしているさまざまな企業(クリックで拡大) 出典:SAPジャパン

 とはいえ、こうしたディスラプティブな製品やサービスを世の中に送り出せるのは、ごく一握りの天才だけだ。そんな天才の代表例が、アップル(Apple)の共同設立者スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)氏だろう。「iPhone」の登場は、これまでの携帯電話機の役割と概念を根本から覆し、さまざまなアプリケーションにイノベーションを起こした。かつての主役だった「音声による通話」は、もはやアプリの1機能しでかない。

 以下に、1つ興味深いデータを紹介しよう。これは、2015年開催の世界経済フォーラム(ダボス会議)で発表された、日本を含む世界の経営者を対象に行ったアンケートに基づく調査結果である。その中で「今後1年間で競合企業がビジネスモデルを大きく変更すると考えているか」という質問に、世界の経営者の68%が「イエス」と答えた。しかし日本の経営者で「イエス」と回答したのは、わずか16%だった。

グローバルと日本の経営者の意識の差
グローバルと日本の経営者の意識の差(クリックで拡大)出典:アクセンチュア「グローバルCEO調査2015

 イノベーションなくしてこれからの市場では生き残れない――。グローバル企業の経営者はそのことに気が付き、強烈な危機感を持っている。しかし、残念ながら多くの日本の経営者は、日本の市場を一変させる新たなビジネスモデルやサービスの脅威に気付いていない。

 今、日本企業に求められているのは、イノベーションの重要性を理解し、一刻も早くイノベーションの実現に向けて行動を起こすことだ。その時に必須となるのが、「デザイン思考」なのである。

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