検索
連載

IIoTの先進事例に学ぶ、製造業に大きな進歩をもたらすデジタルツインIIoTの課題解決ワンツースリー(4)(2/3 ページ)

産業用IoT(IIoT)の活用が広がりを見せているが、日本の産業界ではそれほどうまく生かしきれていない企業も多い。IIoT活用を上手に行うためには何が課題となり、どういうことが必要になるのか。本稿ではIIoT活用の課題と成果を出すポイントを紹介する。第4回では、IIoT先進企業としてドイツのシーメンスの取り組みを紹介する。

Share
Tweet
LINE
Hatena

デジタルツインの未来

 産業IoTの将来像を描くシーメンスだが、日本市場についてはどう捉えているのだろうか。国内でも数多く存在するIoTプラットフォームとMindSphereの違いや、日本の製造業における課題、シーメンスが考える未来の製造業の在り方などについて、シーメンス(日本法人)デジタルファクトリー/プロセス&ドライブ事業本部 クラウド・アプリケーションソリューション部 部長の角田裕也氏に話を伺った(※)

(※)対談は2019年6月に実施。角田氏は2019年6月末にシーメンス(日本法人)を退社しているが、同社の許可を得て角田氏の名前を表記している

他のIoTプラットフォームとMindSphereは何が違うのか

村上 MindSphereとエッジクロスの違いは何でしょうか。

角田氏 エッジクロスはエッジソリューションで、MindSphereはクラウドソリューションという点が大きな違いです。

 例えば「データを取って分析し、稼働率を上げたい」という課題に対しては、どちらでも対応出来ます。エッジソリューションの特徴は、高周期でデータサンプルを取ることができるという点です。そのため、リアルタイムに高速でデータを回し、何かの不具合を見つけてすぐにフィードバックをかけられます。強みとして、コントローラーとの親和性がとても高いことが挙げられます。一方で、サーバや産業用PCなどが必要になるため、初期投資がかかります。また、基本的には1つの工場の中で完結するため、工場での部分最適化のソリューションとして位置付けられると考えます。

 一方で、クラウドソリューションであるMindSphereは、エッジのように1秒ごとにデータをやりとりして、瞬時にフィードバックするというのは、通信速度の関係上、難しくなります。また、セキュリティの問題もあるため、コントローラーのパラメーターを変えるということもリスクだと感じるはずです。ただし、ハードウェアを買う必要がないのでスモールスタートができますし、工場の外にデータがあるため、工場間、あるいはグローバルでの連携が可能になります。

 このように、エッジとクラウドでは特徴が異なるため、顧客が何をしたいかによって選択することになります。エッジとクラウドの両方を使っている顧客も多くいます。また2019年のハノーバーメッセで発表しましたが、シーメンスでもエッジソリューションの提供は始めています。他のメーカーのコントローラーともつなぐことが可能です(※)

(※)関連記事:エッジ強化を再度打ち出したシーメンス、マインドスフィアは段階別提案へ

photo
ハノーバーメッセ2019でシーメンスが出展したインダストリアルエッジデバイス

村上 日本の製造業の課題として感じていることは何がありますか。

角田氏 モノづくりにおいて、日本が特に強みとしている改善活動については、成果が出ています。また、現場の最適化も進んでいます。しかし、それを顧客に対する価値まで視野を広げて考えると、製造現場が目指すべきなのは「マスカスタマイゼーション」だと考えます(※)。つまり、個別のニーズに応えていくということです。しかし、これを実現するには、さらなる少量多品種化を進めなければならず、これまでのアプローチでは実現は難しくなります。これらの課題をクリアするのが、「デジタルツイン」であり、これを構築することが目指すべきところだと考えます。

(※)関連記事:いまさら聞けない「マスカスタマイゼーション」

 工作機械の現場を例にとると、現在はCAD/CAMでどう加工するかをシミュレーションした上で、実際のCNCにそれらのデータを入れて削ることになります。しかし、実際に加工を進めると想定していた状況と異なる場合が生まれます。現状では、現場でコントローラーを微調整して修正しながら加工を行っています。この時点で、コントローラーの加工プログラムとシミュレーションの結果が異なっているにもかかわらず、その2つのデータがつながっていないケースがよくあります。

 デジタルツインでは、バーチャルからリアル、リアルからバーチャルが絶えずシームレスにつながっていなければなりません。そのために重要なことは、リアルで起こっていることを正確にバーチャルに伝える仕組みであり、それこそがIoTの役割になります。デジタルツインを作るために、IoTビジネスを展開することを目指して開発したのが「MindSphere」となります。

 また、生産ラインの最適化を考えた時、現状では「どのようなレイアウトが良いか」「タクトタイムがどうか」を、実際に生産ラインを作って検証し、1つずつ改善していくことが多くあります。しかし、デジタルツインで仮想空間にある工場でシミュレーションし、そこでどんどん最適化していった結果を、実際の工場でそのままレイアウトすれば、試作ラインの構築回数をゼロにはできなくても、少なくとも減らすことは可能になります。こうしたシミュレーションについては、シーメンスでは2000年頃から取り組んでききています。

村上 工場で重要となる品質検査工程についてはどのようにお考えですか。

角田氏 現在は、AIを使って検査工程の速度を速めるシステムや製品が多く出ています。シーメンスにもそのような商材があります。ただ、デジタルツインが完成すると、生産設備での生産時に不具合が起こるのが分かるため、検査工程は必要なくなると考えています。それは、今すぐということではないですが、本当のスマートファクトリーでは、検査工程は不要になると考えます。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る