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住友ゴムのスマート工場はミドルから発信、スモールサクセスの積み重ねが鍵に製造業×IoT キーマンインタビュー(2/3 ページ)

大手タイヤメーカーの住友ゴム工業が、タイヤ生産のスマート化に向けた取り組みを加速させている。この取り組みをけん引する同社 タイヤ生産本部 設備技術部長 製造IoT推進室長の山田清樹氏に話を聞いた。

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成果を分かりやすく示せる「品質」から取り組みを開始

MONOist 製造IoT推進室では当初どのような取り組みを進めましたか。

山田氏 立ち上げ当初の人員は最小構成となる4〜5人程度だった。最初は、展示会やイベントなどに参加して調査するなど手探りで始めた。

 タイヤ生産には「品質」「生産性」「省エネ」「予知保全」などさまざまな課題がある。これらをスマート化するのが製造IoT推進室の役割だが、ITデータ分析によって成果を分かりやすく示せるだろうという意味で、最初に取り組んだのが「品質」だった。

住友ゴムの製造IoTの目指すところ
住友ゴムの製造IoTの目指すところ(クリックで拡大) 出典:住友ゴム工業

 タイヤは全数検査を行っているのでそれに合わせてデータを収集できる。生産ロットごとに検査データをひも付ければ何かが見えてくるはずだと考えた。そして、製造IoT推進室に加わった生産技術をよく知るスタッフが、さらに詳しいデータを取れるようなセンサーの追加も検討した。2018年に、あるサイズのタイヤに限定してPoC(概念実証)を実施したところ、収集したデータの分析結果から品質を向上できることを実証できた。

MONOist 次の段階ではどのような取り組みを進めましたか。

山田氏 もともと製造IoT推進室での取り組みはグローバル展開が必要になると考えていた。グローバル展開となると、各工場で使っている装置や生産ラインの構成が異なる以上、先ほど挙げたPoCのようにFAシステムから直接データを取っていると手間が掛かってしまう可能性が高い。そこで、生産現場の通信で標準的に用いられているプロトコルに対応するMES(製造実行システム)やSCADA(Supervisory Control and Data Acquisition)のようなツールの検討を始めたが、そこで選定したのがPTCの「ThingWorx」と「Kepware」の組み合わせだった。簡単に使えることが最大の特徴であり、実際に数時間もあればデータ収集を始められた。

 データ収集と併せて分析のためのプラットフォームの検討も進めた。日立やベンチャー数社などを含めてPoCを実施したが、その中で日立は大手ベンダーとして安心感があるとともに小回りよく対応してもらえた。

 PTCや日立、住友ゴムグループのSIerであるSRIシステムズも加わって進めているスマート工場のモデルになっているのは名古屋工場だ。現在、データ収集については滞りなく進んでいる状態にある。そこから分析に進む前段階となるデータ整理を行っているところ。また分析の本格化に向けて、その結果の正確性を確認するために生産技術のスタッフも専任化している。

 この他に役立っているツールとして、見える化のための「Tableau」が挙げられるだろう。ThingWorx+Kepwareと同様に、簡単に使えることが特徴で、収集したデータを工場長やライン長をはじめ工場内のさまざまな役割が必要とする情報を見える化した画面を作るのに最適だ。

MONOist まずは「品質」をテーマに取り組みを始めたとことですが、工場内での他の課題についてはどのように対応していますか。

山田氏 「生産性」については、ラインの稼働停止につながる材料不足が起こるタイミングを見える化している。また、各装置や機械のサイクルタイムや作業員の力量の分析もやって生産性を向上できるようにしていく。また、生産進捗の見える化は作業員に気付きを与えるものだが、これも進化させていくべきだと考えている。

 生産品目の変更に合わせた段取り替えを行う前に、使用する材料がそろっているかを1つの画面で情報を見られるようにして行く計画だが、これだけでも数%の生産効率化が期待できる。だからこそ、もっと生産性を伸ばせる余地はあるはずだ。

 「省エネ」については、ThingWorxをベースにしたエネルギーマネジメントシステムを開発中だ。2020年前半にはエネルギーの使用状況を見える化できるようにしたい。

 「予知保全」は、収集したデータをTableauで表示して、従来よりも長いスパンで見える化するところから始めている。今後は、設備の故障データとロス発生時の生産データを突き合わせることで、故障が起きる前に対応できるように進化させていきたい。

 名古屋工場以外でも、白河工場や泉大津工場(大阪府泉大津市)、タイ工場にもThingWorxとKepwareを導入しているので、それらの工場でも成果をしっかり出していく。タイヤ生産部門のトップが横展開していく方針を示しているし、全社の工場長が集まる会議でも、製造IoT推進室の取り組みを高く評価してもらっているので展開は加速できるだろう。

名古屋工場をモデル工場として国内外に展開を拡大させていく方針
名古屋工場をモデル工場として国内外に展開を拡大させていく方針(クリックで拡大) 出典:住友ゴム工業

 住友ゴムでは、スポーツ用品やハイブリッド事業が扱う各種ゴム製品なども生産しているが、製造IoT推進室の取り組みはまずはタイヤ向けに集中している。ただし、Tableauによる見える化の横展開は積極的に進めており、製造IoT推進室の主催で社内勉強会も行っている。

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