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製造業が「DX」を推進するための3つのステージ、そのポイントとは?製造マネジメント インタビュー(1/3 ページ)

製造業のデジタル変革(DX)への取り組みが広がりを見せる中、実際に成果を生み出している企業は一部だ。日本の製造業がDXに取り組む中での課題は何なのだろうか。製造業のDXに幅広く携わり、インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)のエバンジェリストを務める他2019年12月には著書「デジタルファースト・ソサエティ」を出版した東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター 参事の福本勲氏に話を聞いた。

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 製造業のデジタル変革(DX)への取り組みが広がりを見せている。多くの企業が積極的な取り組みを見せている一方、実際に成果を生み出している企業は一部だとされている。日本の製造業がDXに取り組む中での課題は何なのだろうか。また、成果に結び付けるためには何が必要条件になるのだろうか。

 製造業のDXに幅広く携わり、インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)のエバンジェリストを務める他2019年12月には著書「デジタルファースト・ソサエティ」を出版した東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター 参事の福本勲氏に話を聞いた。

そもそもなぜ「DX」が必要なのか

MONOist そもそもの話になりますが、なぜ製造業にDXが必要なのでしょうか。

福本氏 日本では特に生産年齢人口が今後減る中で、総労働時間が減少し続けていく状況が予想できる状況になっている。つまり、一定時間内で生み出せる付加価値を高める取り組みを行わなければ、生み出す総付加価値が減るということだ。

 現在の「働き方改革」というと労働時間を削減することばかりに目が行きがちだが、今の働き方のままで労働時間を削減すると、単純に総付加価値が減るだけで、企業としての競争力を失うだけだ。そこで、時間内の付加価値を高めるために、デジタル技術を使うということが必要になる。デジタル技術に任せるところは任せて、人は「人である必要があるところ」に集中するような働き方に変えていく必要がある。

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東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター 参事 福本勲氏

 特にモノづくりにおいては、日本の強みは現場力や熟練技術者による“匠”の技があるといわれているが、今後こうした技能を継承する人が減っていく。これらの課題に対し「人から人」へ受け渡すだけではなく、「人から機械へ」受け渡すという考え方も必要になってきている。ただ「人から人へ」技能を伝承する場合も、「人から機械へ」伝承する場合も、知見を「形式知化」することが求められる。その中で「人にしかできないところ」と「そうではないところ」を見極めれば、必然的にデジタル伝承も可能になるだろう。

 また、技能をデジタル化して伝承することで、熟練労働者でも見えていなかったものが見えてくるかもしれない。個々の熟練技能者の見方に対し、デジタル技術による分析やAI(人工知能)を活用することで、違った切り口の見方を提示できる。相互に補完することも可能になり、組み合わせることで新たな知見を生み出せる。そうした利点もデジタル技術を活用する効果だ。

なぜ「デジタル技術」を使うべきなのか

MONOist 生産性改善や技能伝承などであれば必ずしもデジタル技術を使う必要はないという考え方もできます。その中で、なぜデジタル技術を使うべきだと考えますか。

福本氏 一番単純なところでいけば、デジタル技術や機械は24時間365日で働かせても「疲れない」という点がある。人間が感覚や経験を生かして取り組んでも、能力的な限界がある他、体力的にも限界がある。基本的な作業やデータ収集、データ分析などは機械に担わせ、デジタル空間内に収集された人やモノ、現象の関連性などを人の知見で結び付けていくような仕組みができれば従来よりも圧倒的に効率を上げることができる。

 もう1つが「スピードと低リスク化」である。デジタル変革は明確な成功の形があるわけではなく、それぞれの企業や事業に合った形で進める必要がある。“正解例”がないために試行錯誤が必要になるが、リアルな空間で試行錯誤するにはハードウェアの試作やこれらの計測など、とにかく時間がかかる。しかし、これらをデジタル空間で行うことができれば、さまざまな試行錯誤をほとんどリソースの消費をせずに行うことができる。多様な試行錯誤を短サイクルで回すことができるようになる。

 製造業は「改善活動」などが定着しており、プロセス改善は得意だが、従来のやり方の延長線上にある改善では限界が見えてきている。「改善」ではなく「変革」が求められる中では、従来のプロセスにこだわるのではなく「人を使うプロセスを一気にゼロにする」や「プロセスの大部分の領域を外部委託にする」など、大規模な変化が必要になる。こうした試行錯誤もデジタル空間でシミュレ―ションできれば、限りなくリスクを低減した形で進められる。先が見えない状況だからこそデジタル技術による低リスク化が求められているといえる。

 そのため「何が何でもデジタルだ」というわけではない。何よりもビジネスモデルをどう変えるのかを考え、その中でデジタル技術により圧倒的に効率化できたり、従来の商流を変えられたりする点がないかを探すことだ。効果が高い部分と低い部分がある場合、効果が得られる部分だけで進めることも選択肢としては当然出てくる。その中でもしデジタル技術がうまくはまらないのであれば、必ずしもデジタル技術を採用しなくてもよいだろう。ただ、デジタル技術の目覚ましい進化の中で適用できる領域は増えている。必ずしもデジタルを使う必要性はないが、デジタル技術を活用する方が合理的だ、ということだ。

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