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「NG画像不足」を解決、少量データで特徴抽出するAI技術スパースモデリング組み込み開発 インタビュー(1/2 ページ)

機械学習と比較して10分の1の教師データで特徴抽出を完了できるスパースモデリング技術。製造業の現場改革にどのように貢献し得るのか。ハカルス 取締役 CBOの染田貴志氏に話を聞いた。

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 製造業では現在、外観検査などの分野でAI(人工知能)導入が進むが、その際にしばしば問題となるのが不良品データの蓄積不足である。一般的に、深層学習で十分な認識精度を実現するには、教師用データとして事前に大量の不良品画像を用意し、AIに学習させなければならない。しかし、そもそも生産品全体に対して不良品の発生件数は少なく、十分な枚数の画像が集まらないという事態が起こり得る。

 こうした深層学習の課題点を解消し得る技術の1つがスパースモデリング技術である。同技術を用いることで、深層学習のみを用いる場合と比較するとAIモデル開発に必要な教師データ量は10分の1程度に抑えられる。スパースモデリング技術を活用したAI開発に強みを持つスタートアップのハカルスは、ソーラーパネルの画像検査の事例などで、「深層学習より高精度かつ高速での検査を実現した。場合によっては100分の1、1000分の1のデータ量でも高精度で分析できる」(ハカルス担当者)と語る。

 スパースモデリング技術はAIモデルを用いた製造業の現場改革にどのように貢献し得るのか。ハカルス 取締役 CBO(最高ビジネス責任者)の染田貴志氏に話を聞いた。

少数のデータで複雑な事象を説明する

MONOist ハカルスの事業概要をご紹介ください。

染田貴志氏(以下、染田氏) ハカルスは2014年に創業したAIスタートアップだ。現在、製造業をはじめ医療、インフラ領域などでAIソリューションを開発、提供している。大阪ガスとAIサービス協働開発プロジェクトを進めているなどの実績がある。

 在籍する社員は約80人。その約8割がAIを開発するデータサイエンティストやソフトウェアエンジニア、動物の心電情報を収集、解析するハードウェアのプロトタイプを作成するエッジデバイス開発チームが占めている。


ハカルスの染田貴志氏※出典:ハカルス[クリックして拡大]

MONOist スパースモデリングとは、どのような技術なのでしょうか。

染田氏 スパースモデリングの起源は諸説あるが、当社の見解では1990年代後半に米国スタンフォード大学で開発された「LASSO(Least Absolute Shrinkage and Selection Operator)」が源流に当たると考えている。

 思想的な面でいうと、スパースモデリングは複雑な事象も少数の重要なポイントを押さえたモデルで説明できるというアイデアに基づいた設計技術だ。かなり要約して説明すると、処理する画像などのデータに対して、「(画像などの)データがスパース(疎)性を持つ」という条件を設定することで、検査で注目すべきポイントを画像内の少数箇所に絞り込めるという技術である。


スパースモデリング技術の特徴概略※出典:ハカルス[クリックして拡大]

 これによって学習用データは少量で済ませることができる。国内製造業は品質管理のレベルが高いので、そもそも不良品のデータ蓄積が極端に少ない、また収集が難しい。また、少量多品種のメーカーなどは製品ごとの不良品データが少なくなり得る可能性もあるが、こうした問題を解決する。

 精度も十分で、過去に当社が太陽光パネルの不具合検査に適用した事例では、SVM(サポートベクターマシン)やCNN(畳み込みニューラルネットワーク)を超える検査精度を達成した。


太陽光パネルの不具合検査への適用例※出典:ハカルス[クリックして拡大]

 これと対照的な思想に基づいたAIアルゴリズムが深層学習で、大量のデータを複雑な構造に通すことで認識精度を向上させようとしている。

 付言すると、説明の都合上、スパースモデリングと深層学習の特徴を対比させる形で語ったが、本来両者は対立する概念ではない。スパースモデリングはデータ解析のモデリングに関するアイデアであり、AIアルゴリズムそのものではないからだ。深層学習と組み合わせて、例えば深層学習で作成したニューラルネットワークから、スパース性を適用することで不要な層を削除して軽量化するという使い方もできる。

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