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“日本のバウムクーヘンの祖”が取り組むロボットとAIによる新たな作り方スマート工場最前線(1/2 ページ)

バウムクーヘンを日本に伝えたユーハイム。同社が取り組む新たなロボットとAIを活用したバウムクーヘン製造への取り組みを紹介する。

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 中心にドーナツ状の穴が開き、年輪上の模様があるドイツのケーキであるバウムクーヘン。大正時代から日本でも広まり、今ではスーパーマーケットなどでも定番商品として扱われるなど、一般的で人気のあるお菓子となっている。

 ただ、バウムクーヘンを一定の品質で作ることは作ることは難しく、菓子職人にとっても多大な労力が必要な状況となっている。そこで、こうした状況に風穴を開けるべく新たな取り組みを進めているのが洋菓子メーカーのユーハイムである。日本にバウムクーヘンを持ち込んだ、ある意味で“日本のバウムクーヘンの祖”ともいえる同社が取り組むAI(人工知能)とロボットを活用した新たなバウムクーヘン製造への取り組みについてお伝えする。

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ユーハイムのバウムクーヘン専用AIオーブン「THEO(テオ)」とプロジェクトを担当したユーハイム 中央工場長の松本浩利氏[クリックで拡大]

日本にバウムクーヘンが伝えられて100年

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切り分けられたバウムクーヘン。年輪状の層が特徴[クリックで拡大]

 ドイツの伝統的なお菓子であるバウムクーヘンだが、日本にその存在を伝えたのは、ユーハイムの創業者であるドイツ人のカール・ユーハイム氏である。もともと中国の青島で菓子店を営んでいたユーハイム氏だが、第1次世界大戦において捕虜となり日本に連れてこられていた。その中で1919年に広島県物産陳列館での催し物で初めてバウムクーヘンを焼いたことが、日本のバウムクーヘンの発祥となっている。その後、日本での永住を決意したユーハイム氏は1922年に横浜で日本における菓子店1号店を出店し、現在のユーハイムへとつながっていった。1966年に愛知県安城市にバウムクーヘン工場を設立するなど、同社にとってバウムクーヘンは今も主力製品であり続けている。

 2019年には日本にバウムクーヘンが伝えられてから100年が経過した。ただ、バウムクーヘンの作り方は、基本的には全く変わっていない。

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芯に巻き付けて焼き上げられたバウムクーヘン[クリックで拡大]

 バウムクーヘンは芯に生地を付け、専用のオーブンで回転させながら一定の焼き具合になるのを見極め、それを層状になるように何度も繰り返して作る。季節や天候などによって、生地の粘度や焼き上がりは変わり、こうした状況を見極めながら、回転のスピードや焼き加減を調整して、ようやく一定の品質のバウムクーヘンができる。そのため、これだけ一般的なお菓子であるにもかかわらず、各オーブンには職人一人一人が張り付いて、製造しており、その負荷は大きな状況が続いている。

 職人が十分に手配できる状況ではこうした環境でも問題ないが、労働人口の減少が進む中では負荷の軽減が大きなテーマとなりつつあった。「未来の在り方を考えるプロジェクトの中で『こうした状況が100年後も通じるのか』や『次世代をどのように考えるのか』という議論があった」と、バウムクーヘン専用AIオーブンのプロジェクトを担当するユーハイム 中央工場長の松本浩利氏は当時を振り返る。

 ちょうどそのころ、ユーハイム 代表取締役社長の河本英雄氏が南アフリカに出張する機会があり、その際にバウムクーヘンも含むユーハイムのさまざまなお菓子を持って行き非常に喜ばれたという。ただ、日本から毎回お菓子を持って行くのは大変なので、「現地でも同じような品質でお菓子が作れるようにできないか」という発想が生まれた。そこで「離れた地域でも日本で作るのと同様の職人技でバウムクーヘンを作る技術」の開発プロジェクトが立ち上がった。

手探りで始まったバウムクーヘン焼成ロボット作り

 これらを背景に始まった「職人技のバウムクーヘンを自動で焼き上げるオーブン」の開発プロジェクトだが、最初からAIやロボット技術を使うことを考えていたわけではなかった。「ユーハイムではバウムクーヘンの焼成には基本的にガスオーブンを使っているが、南アフリカなど海外での遠隔地でも作ることを想定し、新プロジェクトでのオーブンは電気オーブンにすることは決めていた。ただ、それくらいしか決まっていない中で活動を開始した」と松本氏は述べている。

 職人技を再現するために、オーブンにセンサーを付けてデータを取得して分析する発想はあったものの「具体的にどういうデータを取得しどういう形で分析して実際の作業につなげていくのかというところに苦心した。そこで、さまざまな企業や大学などに相談した。その中で中部電力に相談したところいくつかの企業や大学の紹介を受け、何とか具体的な仕組みがイメージできるようになってきた」(松本氏)という。

 当初はデータを取得し閾値を設定してルールベースでコントロールすることを想定していたが「どうせデータを使用するのであれば、AIを活用することでより職人の考え方に近いような結果が得られることが分かった。AIは自分たちには難しい無縁のものだとも考えていたが、話を聞くとできそうな感触が得られた」と松本氏は語る。そこで、独自のバウムクーヘン焼成専用AIの開発を開始した。

 同時に「AIで自律的に判断できるようになるのであれば、ロボットアームでこれらの作業を全て自動で行えれば面白いのではないか」(松本氏)という発想が生まれた。そこで、デンソーウェーブや松浦電弘社の協力を得て焼成工程の全てを自動化できるように開発を進めていったという。

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