「元が取れない太陽電池」という神話小寺信良のEnergy Future(13)(4/4 ページ)

» 2012年02月09日 11時20分 公開
[小寺信良,@IT MONOist]
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ベイバックタイムを短くするには

 ペイバックタイムを短縮するには、幾つかの方法がある。最も単純なのは、発電時の変換効率を上げることだ。技術革新による変換効率アップを、各社が毎年のように発表している。さらに言えば、太陽光の日射量によっても効率は変わる。緯度が高ければそれだけ効率が落ちるが、低ければそれだけ効率が上がる*6)。みずほ情報総研の資料でもその点は調査されており、南欧での利用ではEPTが1.7〜2.7年、中欧での利用では2.8〜4.6年と、1.5倍以上の差が出る(図5)。

*6) 日照条件や平均気温などにも依存する。

図5 エネルギーペイバックタイムの比較 太陽電池の種類(ribbon:リボンSi太陽電池、multi:多結晶Si太陽電池、mono:単結晶Si太陽電池)の他、地域(S-Eur:南欧、M-Eur:中欧)ごとに値を示した。 出典:NEDO(報告書の255ページより)

 量産効果による製造負荷ダウンという点では、最近量産が始まったばかりのCIS(CIGS)が、さらにEPTを短縮するとみられている(関連記事)。一方、Si系は、現時点でも量産規模がかなり大きいため、これ以上の量産効果のマージンは少ないだろうと予想される。

 将来の見通しはどうだろうか。劇的な技術革新を待たずして、年々上がる変換効率と量産効果により、既にEPTの値が1年を切るものも出始めている。2011年に米University of California, Berkeleyの博士課程の学生らが試算した報告*7)によれば、最も効率が高いのは米First Solarなどが製造しているCdTe(カドミウムテルル)を使うタイプだ(図6)。ほぼ10カ月でペイバックする。

*7) 2011年6月に同大学が公開した "An Assessment of the Environmental Impacts of Concentrator Photovoltaics and Modeling of Concentrator Photovoltaic Deployment Using the SWITCH Model"

図6 米University of California, BerkeleyによるEPTの調査結果 オレンジ色でEPTを示した。PV(太陽光発電システム)の他、CPV(集光型太陽光発電システム)やCSP(集光型太陽熱発電システム)の結果も示している。出典:米University of California, Berkeley(報告書の8ページ)

 このような調査研究から、太陽光発電が原子力発電や火力発電に比べて環境負荷が高いという流説には根拠がないことが分かる。ということは、後は金銭的なコストとしての損益分岐点を今後どこまで低くできるか、ということにかかっている。

 太陽光発電施設のコストの大半が太陽電池であった時代は既に終わり、太陽電池を部材の1つとして、立地や日照時間、緯度といった環境条件に応じて、最適な解を選択できる時代に入った。原子力発電に戻るという選択肢は、国民感情からしても採り得ないだろう。だからといって太陽電池だけが代替発電システムとして最適と言いたいわけではない。さまざまなリスクを分散するために、多くの低リスクな発電方法を並行して推進すべきである。


筆者紹介

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小寺信良(こでら のぶよし)

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

Twitterアカウントは@Nob_Kodera

近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)



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