デジタルツインを実現するCAEの真価

「ないと困るなら、復活させればいい」――本当に役に立つCAEの導入方法とはCAE事例(1/4 ページ)

CAEの導入効果は意識して示さなければ外部から見えにくい面もある。またともすればツールの導入ばかりに力が入ってしまい、効果の検証が後回しになってしまうこともある。その問題を解決しようと、いったんCAEの専門組織を凍結してしまうという荒療治を行ったのがオムロンだ。

» 2016年02月17日 10時00分 公開
[加藤まどみMONOist]

 「また壊そうかなと。10年もやっているとマンネリ化してくるので」――オムロン グローバルものづくり革新本部 生産技術革新センタ 要素技術部で、オムロン全社のCAE活用・推進戦略の策定に携わっている岡田浩氏の冗談交じりの一言だ。オムロンには以前から会社全体にCAEの導入、活用を推進する専門の部署があった。だが2005年に一度その部署を解散させている。岡田氏は当時まさにその部署にいた。「10年前は『何てことをしてくれるのか』と思ったが、今になればその考えも理解できる」と岡田氏は話す(関連記事:「とにかく前倒しでCAEやったら何とかなるんちゃうの?」――本当のフロントローディングとは)。

オムロン グローバルものづくり革新本部 生産技術革新センタ 要素技術部 岡田浩氏

現場視点からは程遠かった

 オムロンは1980年代から全社を通してCAEの導入に取り組んできた。ただ解散前までは、モノづくりの現場視点ではなく、計算力学やITの視点からの取り組みになっていたという。またCAE推進部門と設計・生産現場とのやりとりは、依頼された解析をして結果を返すだけという請け負い型になっていた。

 「何せ現場の設計や製造のことが分かっていなかった」と岡田氏は当時を振り返る。解析をしてもその後のフォローが足りず、計算結果が設計に反映されていないといったこともあった。「結局、CAE推進のメンバー自身が、CAEの投資対効果をはっきりと自分たちの言葉で示せなかった」(岡田氏)。

 「そこで当時の取締役が、『一度推進部門をなくしてみればよいのでは。それで現場が困るなら再起動させたらいいだとろう』と言ったんです」(岡田氏)。そこでソフト・ハードの管理についてはIT部門の担当とし、2005年からCAE推進部門を廃止。元いたメンバーは全社に散らばることになった。

ほどなくしてリクエストが

 だがやがてすぐ、設計部門から「CAEについて相談できるところがないと困る」という声があがった。設計部門だけでは難易度の高い解析やトラブルへの対応には限界があった。社内に相談先がないためベンダーに問い合わせると、どうしても計算力学的な視点からのアドバイスになってしまう。コンサルティングを依頼すると金額が大きくなる。それに機密保持の契約などに時間がかかってしまうため、緊急の案件への対応が追い付かなかった。そこで、CAE推進部隊の元メンバーに、個別に解析依頼が殺到することになったという。

 早くも2005年後半には、設計相談窓口としてのCAE部門の必要性が議論された。そして廃止から1年後の2006年、本社直轄の「生産技術革新センタ」および「開発プロセス革新センタ」が立ち上げられ、その組織の業務の一環としてCAEを専門的に扱うことになった。オムロンには製品別に40の事業部がある。両センタは全ての事業部の生産現場および設計現場におけるCAE活用を担う、横串型の組織だ。CAE専門組織ではないのは、あくまで「生産や設計に役立てるためのCAE」という位置付けの表れでもある。生産技術センタと開発プロセスセンタの業務についても明確に線引きができるわけではないため、常に連携して業務を行っている。

 「2006年からは本腰を入れて、現場密着型のCAE展開を進めてきました」と岡田氏は話す。「以前は主に計算力学やITに強いメンバーがCAE活用推進を担当する形になっていました。ですがこの時から、CAEの専門家と設計や生産現場との人材交流を積極的に進めていきました」。

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