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» 2008年05月21日 00時00分 公開

失われた現場改善力を再生させるヒント(6):職人気質を捨て、改善の成功体験を塗り替えよう (2/2)

[眞木和俊/ジェネックスパートナーズ,@IT MONOist]
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現場改善プロフェッショナルとして目指していきたいこと

 前回「作業のバラツキを減らしたいなら“シックスシグマ”」、現場改善で使う問題解決手法(クオリティ・マネジメント)の歴史的変遷を少しだけご紹介しました。図2にその経緯を簡単にまとめてみました。

 日本では高度経済成長とともに、その根幹をなした製造業を中心とする現場の問題解決手法自体も発展を遂げてきました。欧米企業がお手本にした日本企業の強みは、現場の勤勉さに裏付けられた改善活動の“自律性”(注1)にあったといえます。そして第1回「御社の現場改善力、近ごろ鈍っていませんか」で指摘したとおり、現在の生産現場からこの自律性が失われつつあるのです。

図2 クオリティ・マネジメントの進化 図2 クオリティ・マネジメントの進化(© GENEX Partners)

注1:自律性 自らの行動を自ら決めたやり方やルールに従って実行すること。


 ではどうすればこうした自律性を根付かせることができるのでしょうか。

 冒頭に述べたように、皆さん自身の成功体験を思い出してみてください。自律性は現場での成功体験を起点にした好循環によって定着していきます。最初のきっかけは「何かもっとうまいやり方はないものか」という向上心や好奇心かもしれませんし、外部から来たコンサルタントの余計なおせっかいかもしれません。

 そのきっかけを基に、新しい手法やツールを試してみることでうまく結果が出ると、実践したメンバーは成功体験による利益実感を持つでしょう。そして成功体験の味をしめると同じやり方をほかでも試したくなります。そこでうまくいくとさらに他人にまで実践を勧める……という再現性を期待できます。もちろん毎回必ず成功するとは限りませんが、多少なりともその活動から学ぶことがあれば、自律的に「やる気」を持つ人は着実に増えていくのです。

 しかし、時にはこの成功体験創出が現場での軋轢(あつれき)を生じます。よく直面するのが、偉大な先輩たちのやり方や教えを否定しなければならなくなった場合です。そこで思い出していただきたいフレーズが前回記事の「作業のバラツキを減らしたいなら“シックスシグマ”」で説明した「プロセス憎んで、ヒトを憎まず」です。

 オリンピック競技の世界記録が塗り替えられていくように、会社の発展に大きく貢献した偉大な先輩の功績であっても、後任者の新しい成功によって塗り替えられることはあり得ます。どんなに優れた作り方や設計であっても、モノづくりにおいてはお客さまや環境変化が原因となる陳腐化は避けて通れません。過去の成功体験を保守的に聖域化してしまったモノづくりの現場は、いずれ淘汰の憂き目を見ることになるでしょう。先輩の功績を尊重していることに変わりなければ、より優れたやり方に変えようとすることは健全な行為であって、誰はばかられることではないはずです。実は功績を残した先輩も、そのまた先輩たちを乗り越えてきたのかもしれません。

 高度成長期に活躍した先輩方と比べて、現在の現場担当者の自律性発現を難しくしている問題の1つに、活動への「動機付け」があります。経営者には聞こえがいい「ムダ削減」も、努力した本人の仕事まで削減されてしまったり、効率化の名目で失敗を学ぶ機会が失われてしまったりする恐れがあります。本気で現場のヒトを育てたいのであれば、従来のようなボランティアで自然発生的に行われていた改善活動ではなく、計画的に財務投資を行ってきちんとした方法論を習得させ、多少の失敗があっても学習機会だと看過できるくらいの環境が必要なのです。単に効率化と管理強化が目的では、自律性どころか現場は疲弊し衰退してしまいます。

 本来日本発だった“シックスシグマ”とその発展形である“リーンシックスシグマ”の改善手法の逆輸入状態は、いまやこうした改善手法の開発や展開の土壌が海外の現場に移りつつあることを示しています。特に東南アジアやロシア、東欧圏などの新興国の現場で働く人たちの貪欲なまでの技能習得意欲には本当に目を見張る思いです。彼らの向上心は、高い収入を得て生活水準を上げるという基本的欲求からくるものだけとは思えません。やはり良いモノを作る楽しさやお客さまの喜びを実感したいという、モノづくりの現場が感じる当たり前の感覚が強いように思えます。発想を転換すると、彼らの高いモチベーションを生かして現場力を高め、その力を国内に取り入れるといった度量の大きさが求められているのではないでしょうか。

 日本の生産現場には、次世代を支えるイノベーションの勃興もさることながら、あらためてモノづくり担当者の「当たり前のことが当たり前にこなせる力」を養うことが必要だと考えます。いまでも現場力が強いといわれる会社には、現場改善をリードするプロフェッショナル級の逸材が必ずいますし、改善について真剣に議論する場や、人材を育てる仕組みが存在します。モノづくりを支えるこうした仕組みは一朝一夕に出来上がるものではないばかりか、継承していく努力を怠るとすぐに弱体化してしまうものです。

 現場改善プロフェッショナルを自認する筆者としても、改善を目指す皆さんにオープンな議論の場を提供したり、一緒に活動の仕組みを考えたりといった、いうなれば現場改善リーダーの孵卵(ふらん)器の役目を果たすことによって、少しでも現場活性化に役立ちたいと思います。そして近い将来、こうした活動の中から発信される改善ノウハウが再び世界の耳目を集める時代がくることを強く切望してやみません(連載完、第1回に戻る)。


筆者紹介

眞木和俊(まき かずとし)

株式会社ジェネックスパートナーズ
代表パートナー

GEでシックスシグマによる全社業務改革運動に、改革リーダーのブラックベルトとして参加後、経営コンサルタントに転身。2002年11月ジェネックスパートナーズを設立。日本企業再生を目指して企業変革活動の支援を推進している。著書に『図解コレならわかるシックスシグマ』(ダイヤモンド社)、『これまでのシックスシグマは忘れなさい』(ダイヤモンド社)などがあり、中国、韓国、台湾などでも翻訳出版されている。

 ジェネックスパートナーズ
お客さまとともに考え、ともに行動するパートナーとしての視点から「成果を創出できるマネジメント手法の導入」および「人材を競争力の源泉にするためのリーダー育成支援」を行うプロフェッショナルファーム。国内外を問わず幅広い企業、公共団体に対して、数多くの企業変革、人材教育の実績を持つ。



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