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» 2009年08月19日 00時00分 公開

トヨタのカーデザインとデジタル生産(後編):意匠のデータを設計・製造へ生かすCE (2/3)

[武藤一夫/静岡理工科大学 理工学部 機械工学科,MONOist]

 工具のサイズや加工条件(ピッチ送り量、切込み量)で、切削後のクレイ表面の面粗さ(「カプスハイト」)が変わるので、図13に示すような手作業でクレイ表面を仕上げる。

 仕上げられたクレイモデルは3次元測定され、測定データはスタイルCADにフィードバックされ、面データをファインチューニングするサイクルを何度か繰り返して、最終クレイモデルを完成させていく。現在、この工程のリードタイムは大分短縮されている。

 また後工程にデータを渡すうえでも、高精度化が進んでいる。これまでの平面の接続条件は接線連続(G1連続)から曲率連続(G2連続)となり、CADの寸法精度は1/100mmから1000分の1mmまで高められた。*G1、G2は曲線の連続性を示す用語

図13 1分の1クレイモデルの足蹴作業(トヨタ自動車提供)

 図14に示すのは、デジタルマニュファクチャリングによるクレイモデルレスの概要である。実物大のモデルのバーチャル再現とチャックができるようになることで、クレイモデルレスが実現する。

図14 デジタルマニュファクチャリングによるクレイモデルレスの推進

 現在のトヨタでは、新規モデルはすべてクレイモデルレス化が推進されている。従来のクレイモデル作成によるリードタイムの短縮率は従来の3分の2に達しているという。いかに早く、高品質に作るかということは、3次元ソリッドCAD/CAE/CAM/CAT/Networkシステムをいかに一気通貫させるかにかかっている。そのためには、人材教育もまた、現場に課せられた大きな問題となる。従って、知識・経験データを一元的に共有利用できる仕組みが不可欠となる。この仕組みのことを「ナレッジ・ベースド・モデリング(Knowledge based Modeling)」という。すなわちこの仕組みでは、デザインプロセスのルールを組み込むことができる。トヨタでは仏ダッソー・システムズ(Dassault Systemes)のハイエンド3次元CADシステム「CATIA」を利用している。

設計から生産準備までの工程

 トヨタのデザイン部では自社開発のシステムを多く使っている。この主な理由としては、市販のシステムでは意匠は作成できても、精度が不足しているところによる。市販システムを利用している他社でもカスタム化しているのが現状ではなかろうか。

 設計・製造部門に渡すデータの作成の効率化とは、具体的にはシステムやツールに高品質・高精度のデータ作成機能を盛り込むことである。約10年前からデザイン部門は、金型を直に削れる(直彫りできる)データを設計・製造部門に出してきた。

 このために、統合システムのモデリングモジュール(スタイルCADの新版)を開発、すでに1998年春ごろから本格的に稼働させている。従来はシステム担当者やオペレータが手間をかけて工夫してきたが、モデル全体の品質や精度をシステムでなるべく保証することで、両者の負荷を減らし、開発期間短縮につなげている。

 図15に示すように1998年の半ばからデザイン部門のシステムも統合システムに連結しており、それより以前から統合システムが導入されていた設計部門などとデータベースを介し設計変更などの情報をやりとりできるようになっている。

図15 新しい統合システムとしての生産準備ツールの統合(データ基準化)(トヨタ自動車提供)

 そのため、すでに図15に示したように設計から生産準備のためのツールの統合、つまり、3次元ソリッドCADで創成された製品モデル(プロダクトモデル)を中心としたPLM共有データベース化とそのデータ標準化が行われている。すなわち、業務別データベースに変わるPLM共有データベースの構築、そしてデジタル数値を基準とする製品開発体制の確立である。

 現状では、デザインから出たデータを基にして後工程で順次作業が進む、いわばシーケンシャル的な要素が大きい。これに対して、新方式では製品モデルというデジタル情報をPLMデータベースにあらかじめ用意しておき、それに各工程が時間的にほぼ同時にアクセスでき、本格的な分散・パラレル作業が推進できる点が最大の特徴といえる。

 このシステムにより工程ごとのデータ管理が不要となり、一元的な管理が可能となる。また、他工程における作業の進行状態も把握でき、ち密な連携を図りながらの設計業務を展開できる。

コンカレントエンジニアリング技術

 トヨタでは、CADシステムを中核として、各種資料、モデル、イメージスケッチ、図面などをリンクした、統合デザイン支援システムとして展開している。ボディ開発工程との連携をち密に図るために、形状データをタイムリーに設計し、生産技術などの後工程に提供することで、新車開発のリードタイム短縮を支援する体制を持っている。前編でも説明した「コンカレントエンジニアリング」(CE)だ。

  1. 設計へのアイデアの初期段階から、意匠面データの提供、設計検討の支援を行っている。
  2. 生技部門へ、マシニングセンタ等の工作機械への直彫り可能な高品質な面データの提供を行う。

 各機能別のCADシステムをトヨタ自動車全社的に統合CAD/CAM化する。つまり、3次元ソリッドCAD/CAE/CAM/CAT/Networkシステムのプラットフォームの標準化を進める。

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