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» 2010年12月09日 12時00分 公開

次世代デジカメ技術なぅ(2):デジカメにリコンフィギュラブルな頭脳を――カシオ「EXILIMエンジンHS」 (2/3)

[永山昌克,@IT MONOist]

「デジカメにリコンフィギュラブルプロセッサ」って現実的?

――リコンフィギュラブルプロセッサはコストが高いというイメージがありましたが、今回、その課題はクリアできたのでしょうか?

今村氏: はい。ご想像のとおり、かなりのコストアップが心配されていましたが、最終的には何とか製品搭載できるような現実的価格に抑えることができました。

――今回開発したリコンフィギュラブルプロセッサのゲート数(回路規模)はどのくらいですか?

今村氏: 詳細はお伝えできませんが、非現実的なくらいのゲート数が組み込まれています。わたし自身は実際にLSIの開発に携わっていませんが、担当したスタッフは「本当に怖かった」といっています。「デジカメ用にこんなものを本当に作ってしまっていいのだろうか。オーバースペックではないだろうか」という恐怖感があったというのです。

 リコンフィギュラブルプロセッサを開発したいと考えているエンジニアはたくさんいると思いますが、そう簡単に船出できるものではありません。もしかしたら他社でキャッチアップされるメーカーもいるかもしれませんが、同じことをやろうとすれば、そこにはわれわれ同様に、大変困難な壁が立ちふさがっているはずです。コスト面もそうですし、ゲート数もそうです。

 また、消費電力の問題や発熱の問題などもすべてクリアしなければなりません。一般的な考えでは、リコンフィギュラブルプロセッサはデジカメのような携帯型の機器に容易に搭載できるシロモノではないのです。そのため開発開始には、勇気が要りました。本当にこんなものを作って載せてしまうことに了承を得られるのか、あるいは仮に作ったとしても、本当にコストに見合うだけ使いこなせるかどうか。不安な面がたくさんありました。

photo 画像7 「リコンフィギュラブルプロセッサの開発開始には、勇気が要りました」(今村氏)

――エンジンの説明図にある、それぞれのプロセッサは個別で搭載されているのですか?

今村氏: はい。完全なマルチCPUです。

photo 画像8 「EXILIMエンジンHS」の概念図

デジカメはリコンフィギュラブル向きな機器

――御社に限らず、これまでに家電などの分野で、リコンフィギュラブル技術が使われた例はあるのですか?

今村氏: リコンフィギュラブルを十分に活用し切って、ベネフィットが得られたという例はあまりないかもしれません。リコンフィギュラブルは、より並列で、より高速で、より最先端技術というものが望まれる家電機器であれば、ありがたみがあると思います。

――そういう意味では、デジカメという機器はリコンフィギュラブルの採用に一番合っているような気がします。

今村氏: そうですね。デジカメはのんびり待てる機械ではありません。撮影のチャンスを逃してしまったら二度と訪れないですから。しかも、画質をきれいにする処理と、素早く次の被写体を撮らせるという処理は、相反する部分があります。

 例えば最近の当社製品では、高画質の処理を撮影直後にプロセッシングで行う「プレミアムオート」というモードを搭載しています。お客さまからも認めていただき、それなりの評価をいただいていますが、その処理に最長で9秒もの時間がかかるという弱点もありました。なぜそんなに時間がかかっていたかというと、ソフトウェアを汎用プロセッサで処理していたためです。しかし今回の製品では、リコンフィギュラブルを使うことで、処理時間を劇的に短縮できました。またマルチCPUがそれを補助することによってさらにパフォーマンスを改善しています。

――高画質の処理とは具体的にどんなものですか?

今村氏: 代表的なところでは、環境判定を行っています。他社でもよくありますが、シーン判定に類する機能で、それによって部位ごとに画像処理を変えています。例えば、フラッシュ撮影の際、フラッシュが当たった人物と、それ以外のタングステン光で照らされている部分とでは、色がおかしくなるケースがあります。そこで、フラッシュ光が当たった部分と当たっていない部分とで、それぞれ異なるホワイトバランス処理を行う「インテリジェントカラー」と呼ぶ機能を搭載しました。

 また、撮影者が最も印象に残るであろう色を推定して、そこの彩度を調整することで非常に色鮮やかな仕上がりになる「風景メイクアップ」や、人物を検出した際に人肌だけを少し滑らかに補正する「人物メイクアップ」なども、高画質処理の例といえます。これらは部分ごとに処理を変えていますので、演算と画像処理に非常に時間がかかるものなのです。

 さらにプレミアムオートでは、こうした画像処理のすべてが同時に作動します。従来機の「エクシリムエンジン5.0」の場合、個々の画像処理の時間は1〜1.5秒であっても、それらが重畳されて、条件が悪い場合にはワーストで9秒になっていました。それがリコンフィギュラブルプロセッサによる新エンジンを搭載した新製品では、撮れたことが分からないくらいのアッという間に処理が完了します。高価な一眼レフ機と同じような使用感をコンパクトデジカメで実現できたと思います。

――消費電力という点では、リコンフィギュラブルは従来のASICと比べていかがでしょうか?

今村氏: 当初、電力の試算をした際に、カメラという機器に載せるのは無理なんじゃないかと思われました。リコンフィギュラブルにすることでゲート数が大きくなり、電力消費が増えてしまうのです。

――その消費電力の問題をどうクリアできたのでしょうか?

今村氏: エンジンの消費電力を下げる努力をするのはもちろんのことですが、わたしどもはシステムとしてのトータル電力を下げる手法による製品化実現を考えました。当社では省電力化対策として、間欠的に動作を変えるということを一貫して行っています。非常に速いエンジンですが、常時スーパーハイクロックで動いているわけではありません。撮影するまでのアイドル時間帯では、一番低い駆動周波数で動かしていて、ほとんどのプロセッシングは寝ています。そして、いざシャッターを半押ししてオートフォーカスが作動すると、駆動クロックを一斉に上げてとんでもない演算を行い、さらに撮影後にも相当量の処理を行います。

――半押しのタイミングでオンになるのですか?

今村氏: 厳密にいえば完全なON/OFFではなく、必要に応じて適宜、全開で動いたり、またある時はアイドル状態で動いたりといった状態になります。この辺をきめ細かく制御することによって、バッテリーを温存しています。もちろんエンジンの駆動だけでなく、レンズの駆動やそのほかの部分の駆動に関しても、同様のことを行っています。気が遠くなるような省電力対策を各所で施して、その累積で電池寿命を稼いでいるのです。もともと当社が培ってきた省電力技術があったからこそ、リコンフィギュラブル技術を採用できたといえるかもしれません。

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