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» 2019年03月14日 10時00分 公開

車載半導体:次世代車載マイコンがプロセッサをダウングレード、でもそれが「正しい選択」

サイプレス セミコンダクタが車載マイコン「Traveo(トラビオ)」の新世代ファミリーとなる「Traveo II」を発表。プロセッサコアとして、現行のTraveoの「Cortex-R5F」に替えて、「Cortex-M4」や「Cortex-M7」を採用することで、スケーラブルな性能や低消費電力などを実現したことを特徴とする。

[朴尚洙,MONOist]

 サイプレス セミコンダクタ(Cypress Semiconductor)は2019年3月12日、東京都内で会見を開き、車載マイコン「Traveo(トラビオ)」の新世代ファミリーとなる「Traveo II」を発表した。プロセッサコアとして、現行のTraveoの「Cortex-R5F」に替えて、「Cortex-M4」や「Cortex-M7」を採用することで、スケーラブルな性能や低消費電力、より高速の入出力インタフェースの搭載、高レベルの機能安全やセキュリティへの対応などを実現したことを特徴とする。ボディー制御システム向けにラインアップした3シリーズのサンプル出荷を開始しており、2019年10〜12月期には量産出荷の体制が整う計画だ。

 Traveo IIで注目すべき点は、現行のTraveoが、高性能のリアルタイム処理が必要な機器向けのプロセッサコアであるCortex-R5Fを採用しているのに対し、よりIP(知的財産)コストが安価で機能も限られるマイコン向けプロセッサコアのCortex-M4、Cortex-M7を採用していることだ。

サイプレスの車載マイコンの展開 サイプレスの車載マイコンの展開。富士通セミコンダクター(当時)が独自開発した「FR81S」から「Traveo」となり、その次世代品が「Traveo II」である(クリックで拡大) 出典:サイプレス セミコンダクタ

 半導体の次世代製品を開発する場合、プロセッサアーキテクチャとしてより高度なものを選ぶのが一般的だ。Traveo IIともなれば、Cortex-R5Fの後継となる「Cortex-R7」や「Cortex-R8」、「Cortex-R52」などを選んでいてもおかしくない。しかしサイプレスは、全社的な製品開発の基盤としてCortex-M4、Cortex-M7など「Coretx-Mシリーズ」のプロセッサコアを用いており、Traveo IIでもその方針を一貫したものとみられる。

コンチネンタルの採用が決まるなど引き合いは増加

サイプレス セミコンダクタの布施武司氏 サイプレス セミコンダクタの布施武司氏

 ただしこの選択はTraveo IIにとってマイナスになったわけではなく、むしろプラスに働いたようだ。サイプレス セミコンダクタ シニアバイスプレジデント 自動車事業部長の布施武司氏は「プロセッサコアがCortex-R5FからCoretx-Mシリーズに変わっても大きな問題にはなっていない。Coretx-Mシリーズで開発する方が、より高機能にできると感じている。スケーラブルに製品を展開していく、点でなく面で攻めるという意味でもCoretx-Mシリーズの方がやりやすい。また、車載マイコンの価値を最大化するためのソフトウェアも、Traveoと同様にAUTOSARに準拠しており再利用が可能だ。実際に、大手ティア1サプライヤーであるコンチネンタルへの採用が決まるなど引き合いは増えており、Traveo IIでの選択は正しかったと考えている」と説明する。

 なおTraveo IIは、端子数が48〜320、フラッシュメモリ容量が128K〜8MBなど幅広いラインアップで投入していく予定だ。今回発表したのは、160MHz動作のCortex-M4を搭載する「CYT2B7シリーズ」と「CYT2B9シリーズ」、350MHz動作のCortex-M7をデュアルコアで搭載する「CYT4BFシリーズ」の3シリーズ。今後は、シングルコアのCortex-M7のシリーズなどを追加していく。また、今回の3シリーズはボディー制御システム向けだが、Traveoで採用実績のあるグラフィックス機能などを備えたメーター向けのシリーズの投入も計画している。

「Traveo II」で市場投入が決まった3シリーズの概要主な用途 「Traveo II」で市場投入が決まった3シリーズの概要(左)と主な用途(右)。今後スケーラブルに追加ラインアップを投入していく予定だ。(クリックで拡大) 出典:サイプレス セミコンダクタ

 Traveo IIは、コネクテッドカーとしてさまざまなネットワークにつながることを前提とした機能を備えている。高度な暗号化が可能なHSM(Hardware Security Module)を実現する暗号化回路の集積と、実行領域と更新のための領域を2つ備えるRWW(Read While Write)が可能な内蔵フラッシュメモリの採用で、ファームウェアレベルのOTA(Over the Air)であるFOTAを可能にしている。入出力インタフェースも、次世代CANであるCAN-FDや、伝送速度が高い車載イーサネットに対応した。

セキュリティやFOTAの機能FOTAのイメージ コネクテッドカー前提としたセキュリティやFOTAの機能(左)とFOTAのイメージ(右)(クリックで拡大) 出典:サイプレス セミコンダクタ

 自動車向け機能安全規格のISO 26262についても、ボディー制御システムに求められる安全要求レベルであるASIL Bを満たしており、関連のドキュメントなどもそろえている。なお、最も安全要求レベルが高いASIL Dについては「Cortex-M7のデュアルコアはロックステップ動作が可能なので、今後の製品開発でも十分に対応していけるだろう」(サイプレス セミコンダクタ 自動車事業部ストラテジック マーケティング ディレクターの楠本正善氏)とした。

 Traveo IIの処理性能は、Cortex-M7をデュアルコアで搭載するCYT4BFシリーズで最大1500DMIPSとなり、これはボディー制御システム向けのTraveoで最も性能が高い「S6J335E」の3.75倍に相当する。消費電力効率(MIPS/mW)では、CYT2B7シリーズが、Traveoで同格の「S6J342A」と比べて35%増を達成。待機時のディープスリープモードの消費電力は、Traveoの50μAに対して35μAに低減できている。

「Traveo II」と「Traveo」の性能比較「Traveo II」と「Traveo」の消費電力比較 「Traveo II」と「Traveo」の性能比較。処理性能(左)と消費電力(右)(クリックで拡大) 出典:サイプレス セミコンダクタ

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