デジタルツインを実現するCAEの真価

シミュレーション主導設計の実現に向けた八千代工業の挑戦CAE事例(1/3 ページ)

八千代工業は、ダッソー・システムズ主催の「Dassault Systemes User Conference 2019」において、「CATIA、Abaqus、Isightを使った樹脂製燃料タンクの最適設計技術の構築と設計者展開」をテーマに講演を行った。

» 2019年06月27日 13時00分 公開
[八木沢篤MONOist]

 ダッソー・システムズ主催の「Dassault Systemes User Conference 2019」(会期:2019年6月21日)において、八千代工業 開発プロセス改革ブロック 海老原寛氏が登壇し、「CATIA、Abaqus、Isightを使った樹脂製燃料タンクの最適設計技術の構築と設計者展開」をテーマに、シミュレーションの本質を踏まえた技術構築の取り組みについて講演を行った。

 自動車部品メーカーとして、燃料タンク、サンルーフ、樹脂部品などを手掛ける同社は、CAEツールを活用することで、どのように設計プロセスを改革しようとしているのか? 単なる確認のためではなく、設計のためにCAEを活用していこうという同社の思い、その狙いについて詳しく紹介する。

より良い設計のためにCAEを活用する八千代工業の取り組み

八千代工業 開発プロセス改革ブロック 海老原寛氏 八千代工業 開発プロセス改革ブロック 海老原寛氏

 八千代工業は、設計を含む開発フロー全体の改革に取り組む中、その一環としてCAE技術を活用した新たな設計プロセスの構築に挑戦している。海老原氏が所属する開発プロセス改革ブロックでは、設計者がCAEを効率的に使うための技術構築およびツール開発を行うことでその活動を後押ししている。

 今回の講演では、その取り組みの1つ「ソフトウェアロボット」の実現をメインに、ダッソー・システムズのプロセス統合・設計最適化ツール「Isight」、ハイエンド3D CAD「CATIA」、有限要素解析ツール「Abaqus」を用いた、樹脂製燃料タンクの“シミュレーション主導設計の実現に向けた歩み”について順を追って説明した。

 冒頭、海老原氏は「われわれは、世界レベルのCAE技術の構築と設計への適用という高い目標を掲げている。その実現に向けて、ダッソー・システムズ、プログレス・テクノロジーズ、名古屋大学と協力し合いながら取り組んでいる。CAEを中核とした技術開発に注力すると同時に、技術者教育にも力を入れることで、世界レベルのCAE技術を社内に構築していきたい」とプロジェクトの意義について語る。

八千代工業が掲げるプロジェクトの概要について 八千代工業が掲げるプロジェクトの概要について。ソフトウェアロボットの他、トポロジー最適化、V&V、ロバスト設計など、複数の技術開発を進めている ※出典:八千代工業

「Abaqus」の生みの親が語った“シミュレーションの本質”

 なぜ、八千代工業はCAE技術の活用に注力するのか。海老原氏はその背景にある“シミュレーションの本質”として、日本計算工学会の学会誌「計算工学」からAbaqusの生みの親であるDavid Hibbitt(デビッド・ヒビット)氏の言葉を幾つか紹介した。

 「2018年は、Abaqusが誕生して40周年の記念の年だった。これを機にヒビット氏の論文をあらためて見直してみたところ、『実験をシミュレーションで置き換えようとすることは間違えである』『シミュレーションは短期間かつ低コストでより良い設計が行えることを約束してくれる』『何度も繰り返される設計問題に対しては解析プロセスの自動化が有効だ』『シミュレーションは設計過程に統合されるべきである』など、非常に面白い気付き、参考になるヒントが随所に見られた」と海老原氏は述べる。この論文との出会いにより、同社は“実験をCAEで置き換える努力よりも、CAEを使ってより良い設計技術を構築する努力の方が重要だ”という思いに至ったそうだ。

 さらに、海老原氏はダッソー・システムズの技術コンサルタントである工藤啓治氏が公式ブログに掲載した「デザインとシミュレーションを語る」も紹介。その中で語られているシミュレーション活用のメリットのうち、特に「パラメトリックモデルの自動生成」と「失敗から学べる点」に共感を覚えたという。「シミュレーション技術を活用することで、パラメトリックモデルの自動生成が行える。1つのひな型モデルから形状や条件を変更したモデルを自在に作成できる。また、シミュレーションによる失敗で失うコストは計算時間のみだ。その失敗を学習し、さらにいろいろなパターンを計算できる。こうしたメリットを最大限に活用することが重要だ」(海老原氏)。

 そこで同社は、シミュレーションを設計の初期段階に適用することで、開発期間の短縮と完成度の向上を図るとともに、効率化による定型業務負荷の低減を狙う。「設計初期からシミュレーションと実験計画法(DoE:Design of Experiments)などを組み合わせて使いつつ、設計自由度の高い段階からしっかりと完成度を上げていくことを目指す。さらに、自動化の仕組みを構築することで効率化、開発期間の短縮を実現する。開発期間については50%削減を目標に掲げている」と海老原氏。

八千代工業が技術構築で目指すもの 八千代工業が技術構築で目指すもの ※出典:八千代工業

 また、CAEを単に物理現象の確認のためだけに使うのではなく、設計視点でCAEと最適化技術を駆使することにより、設計の精度そのものを抜本的に改善する強力な技術として構築することを目指すという。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.