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» 2019年09月03日 10時00分 公開

次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う(14):「はやぶさ2」第2回タッチダウンの全貌、60cmの着陸精度はなぜ実現できたのか (3/4)

[大塚実,MONOist]

実行するかどうか、チームには迷いも

 当初からタッチダウンの候補地点として考えられていたのはS01領域だったが、その後の接近観測などの結果から、「L14」「C01」の両領域が追加。これら3つの領域を候補として、着陸地点の選定が進められることになった。この中のC01は、作成された人工クレーターを含む領域である。

抽出されたタッチダウン候補地点 抽出されたタッチダウン候補地点(黄色の円)。3エリアの中に11地点があり、直径は6〜12mだ 出典:JAXA、東京大、高知大、立教大、名古屋大、千葉工大、明治大、会津大、産総研

 そして最終的に決定されたのは、「C01-Cb」という、半径3.5mの円形の地点だ。今回も狭いには狭いのだが、1回目の「L08-E1」よりはやや広い。1回目よりもターゲットマーカーが近いという好条件もあり、1回目で成功した実績がある「ピンポイントタッチダウン」であれば、十分可能なはずだ。

運用 1回目(TD1) 2回目(PPTD)
実施日 2019年2月22日 2019年7月11日
着陸場所 L08-E1 C01-Cb
着陸可能領域 半径3m 半径3.5m
使用TM TM-B TM-A
TMからの距離 約6m 2.6m
TM追尾開始高度 45m 30m
最終降下軌道 斜め降下 垂直降下
ヒップアップ 最終降下直前 8.5m到着直後
サンプル格納 A室 C室
着陸精度 約1m 60cm
表1 1回目と2回目の比較

 ただし、2回目のタッチダウンを実施するかどうかの結論は、すんなりとは出なかった。JAXAとして、「実行」を正式に決定したのは6月25日。リュウグウは太陽に近づきつつあり、表面温度が高くなり過ぎると、タッチダウンができなくなる。リミットが迫る中で、ギリギリまで議論して出した結論だった。

 慎重に議論を進めたのは、冒頭で述べた光学系の問題もあったからだが、何より、1回目と2回目では探査機自体の「重み」が違ったことが大きいだろう。タッチダウンにはリスクがあるとはいえ、1回もトライせずに地球に帰還しても意味が無い。難しくとも、1回目はチャレンジする以外の選択肢が無かった。

 しかし今回は違う。1回目で既に成功しており、探査機の中には貴重なサンプルが格納されている。これだけでもサイエンス成果は計り知れず、2回目をあえて実行せず、帰還を優先させるという判断も十分あり得た。安全に成果を確定しておくか、それとも倍増を狙うか。これは非常に悩ましい選択だ。

 まるでクイズ番組の選択のようだが、プロジェクトチームが実行を決めたのは、決していちかばちかのギャンブルでは無い。アボート(中止)条件を適切に設定しておけば、何か異常事態が発生したときでも、探査機は安全に離脱できる。サンプル採取に失敗することはあったとしても、安全は最優先で確保する。この姿勢は一貫している。

 光学系が曇っていて、受光量が低下している問題には、ターゲットマーカーを捕捉する高度を45mから30mに下げることで対処した。これだけ高度を下げると、カメラの視野に入る地表の範囲が3分の2まで狭くなり、ターゲットマーカーを見失う可能性は増すものの、近いので視野に入りさえすれば捕捉はしやすい。その他、ターゲットマーカーを認識する際の画像処理のパラメータ(2値化の閾値)を調整するなどの対策も行った。

低高度における運用シーケンス 低高度における運用シーケンス。高度30mでホバリングして、ターゲットマーカーを捕捉する(クリックで拡大) 出典:JAXA

 そして実行した結果は、完璧といえる成功。事前の予測では、タッチダウン時刻は10時5分〜45分と見られていたが、実際には10時6分と、ほぼ最速タイムでシーケンスが進行したことからも、ターゲットマーカーの捕捉が順調に行われたことが分かる。

タッチダウンの位置 タッチダウンの位置。精度はついにcmの領域になった(クリックで拡大) 出典:JAXA、東京大、高知大、立教大、名古屋大、千葉工大、明治大、会津大、産総研

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