AUTOSARの最新リリース「R19-11」とは(中編)AUTOSARを使いこなす(15)(1/4 ページ)

車載ソフトウェアを扱う上で既に必要不可欠なものとなっているAUTOSAR。このAUTOSARを「使いこなす」にはどうすればいいのだろうか。連載の第15回では、前回に引き続き、2019年12月に一般公開されたAUTOSARの最新リリース「R19-11」について紹介する。

» 2020年02月25日 10時00分 公開
[櫻井剛MONOist]

⇒連載「AUTOSARを使いこなす」バックナンバー

はじめに

 前回の第14回に続き、R19-11の内容をご紹介してまいります。今回は、主にClassic Platform(CP)での変更点について、もう少し詳しく見ていきたいと思いますが、まずは、変更点などの把握の仕方と、前回ご紹介しきれなかった「Project Objective」(AUTOSARでの要求ヒエラルキーの最上位)の変更についてご説明していきたいと思います。

AUTOSARの変更点や既知の制限事項を把握するには

 最初に、変更点や既知の制限事項をおおよそ把握する方法を、筆者が所属するイーソルのトレーニングコースの内容から抜粋して少しご紹介いたします。

 各文書の変更点の概要は、冒頭にある「Document Change History」にまとめられています(図1)。残念ながら記述量の制限があり、主要な数項目以外は記述が省かれてしまっていますので、決して網羅的なものではありません※1)

※1)主要な数項目以外は記述が省かれることについて、「AUTOSARでの変更管理は雑だ、けしからん」というご批判があることも存じ上げていますが、Working Group(WG)参加資格を持つ会員や実際に貢献しているメンバーの権利保護という側面にも関連するAUTOSAR内の決まり事ですので、document owner個人では何ともしようがございません。この点についてはどうぞご容赦ください。

 特に、筆者がこのリリースから追加で担当することになった文書の1つであるSWS Watchdog Manager(WdgM)など、機能安全達成に用いられる典型的なsafety mechanismを提供するモジュール群については、「(製品の手前にある)規格レベルで何を期待することができるのか、頼ることができるのか」の把握のために、変更点を知ることは重要になります。

 しかし、詳細を把握するためには前のバージョンの文書との比較をするしかありませんし、特に背景を把握しようとすると、AUTOSARのWG参加資格を持つ会員のみがアクセス可能な変更管理システム上の議論、同じくアクセス制限のかかっているリポジトリ上の議事録や詳細変更履歴などの情報を精査する他はありません。

図1 図1 R19-11でのCP SWS Watchdog Manager(WdgM)の表紙と変更履歴

 また、既知の制限事項の概要については、各BSWの仕様を定めたSWS文書の第4章にLimitation※2)などとして記載されています。例えば、筆者の担当しているSWS WdgMでは、3ページにわたり各種制限事項が列挙されています。

※2)既知の制限事項もそれほど網羅的なものではありません。Document ownerが掲載すべきと主張したとしても、WGで合意が得られなければ掲載できない場合があります。実際のところ、WdgMには未解決の問題がまだ多数あります。

 なお、CPなどプラットフォーム単位で作成されている「TR Release Overview」という文書には、以下のような内容がまとめられています。

  • 適用されたConceptなどの大きな変更の概要(第2章 Summary of changes)
  • 文書の追加削除など(第3章 Specification overview)
  • 既知の制限事項(第4章 Remarks to known technical deficiencies※3)
  • 各文書の当該リリースでの「Document Change History」上の変更点(同一内容、第5章 Release history)

※3)既知の制限事項は、SWS文書のLimitationに記載された内容や未記載の既知の問題点のうち、document ownerが掲載すべきと判断した内容がまとめられています。あくまでdocument ownerの判断にゆだねられますので、ここにも網羅性はありません。

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