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» 2020年10月19日 06時00分 公開

ブレーキの歴史と未来(1):革のベルトからバイワイヤまで、ブレーキの発展の歴史を振り返る (1/3)

ブレーキの歴史を振り返ると、自動車の進化や外部環境の変化によって課題が生じ、そうした課題を解決するために発展を遂げてきたことがよく分かります。第1回はブレーキが発展してきた歴史と今後の展望について解説します。

[一之瀬 隼,MONOist]

 このコラムでは、自動車に乗っている人だけでなく、道路の近くにいる全ての人やものを守るために欠かせないブレーキについて、自動車関係の企業で働く現役エンジニアの視点で解説します。ブレーキは自動車を安全に運転するために必要不可欠ですが、その存在が意識されることはあまりありません。このコラムを通して少しでも多くの方に知ってもらえれば幸いです。

 ブレーキの歴史を振り返ると、自動車の進化や外部環境の変化によって課題が生じ、そうした課題を解決するために発展を遂げてきたことがよく分かります。第1回はブレーキが発展してきた歴史と今後の展望について解説します。

初めての自動車に使われた革のブレーキ

 エンジンで走行する初めての自動車に取り付けられたブレーキには、革のベルトが用いられていました。走行している自動車の車輪に革のベルトを巻き付けることで、車輪とベルトの間に摩擦力を生じさせ、車輪を止める形式のブレーキです。

 初めての自動車には、サスペンションやタイヤなど多くの部品が馬車から引き継がれて使われていましたが、ブレーキも同様に馬車で使われていたものです。当時の自動車は時速15km程度の速度でしたが、革のベルトを用いたブレーキは耐久性が低く、繰り返し使用する中でちぎれてしまい、長くは持ちませんでした。自動車が発展して最高速度が上がるにつれて頻繁に交換しなければならず、より大きな制動力と高い耐久性を持つブレーキが必要になりました。

初期の自動車には、馬車から多くの部品が引き継がれた(クリックして拡大)

 自動車の発展とともにブレーキの主流となったのは、ドラムブレーキです。金属のドラムを車輪に取り付け、その内側にブレーキシュー(摩擦力を発生させる部品)を取り付けた構造です。ドライバーがブレーキを操作することでブレーキシューが外側に開き、ドラムの内側に押し付けられることで制動力が発生します。ドラムブレーキは現在でも、軽自動車を中心とした小型車の後輪や、高い制動力が必要となるトラックなどに取り付けられており、長く採用され続けています。

 一方で、ドラムブレーキには、摩擦熱によってドラム内が高温となり、ブレーキ機能が低下する「フェード現象」を起こしやすいという欠点がありました。自動車が大きく、走行速度が速くなるにつれてブレーキにかかる負荷も大きくなり、ブレーキフェードを起こしにくい新たなブレーキが求められました。

ドラムブレーキは長く使われているが、放熱が課題に(クリックして拡大)

放熱性の高いディスクブレーキ

 ディスクブレーキは現在も多くの車両で用いられているブレーキ形式で、車輪と一緒に回転するブレーキローターと、固定されたブレーキキャリパーによって構成されます。ドライバーがブレーキを操作することで、キャリパー内のピストンと、ピストンによって押し込まれるブレーキパッドが前進し、走行中にタイヤとともに回転しているブレーキローターへ押し付けられることで減速します。摩擦熱の発生により高温になるブレーキローターやブレーキパッドは常に空気に触れているため、走行中は冷却され続けブレーキフェードを起こしにくい点が特徴です。

 一方で、ディスクブレーキはドラムブレーキと比較してブレーキ力を発生させられる摩擦部の面積が小さいため、人間がペダルを踏む力だけで強い制動力を発生させることは困難です。自動車を速やかに停車させるためには、ドライバーの操作力を増幅する仕組みが必要になります。

ディスクブレーキでクルマが止まるためには、操作力を増幅する機構が必要(クリックして拡大)

 操作力を増幅させるため、現在は主に3つの仕組みが採用されています。これら全てが同時期に採用されたわけではありませんが、操作力を増幅する機構としてまとめて紹介します。

  • ブレーキペダル:てこの原理
  • ブレーキブースター:エンジン負圧で助勢
  • 油圧ブレーキシステム:パスカルの原理
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