エッジコンピューティングの逆襲 特集

インテルのIoT戦略から生まれたRTOS「Zephyr」は徒花で終わらないリアルタイムOS列伝(7)(1/3 ページ)

IoT(モノのインターネット)市場が拡大する中で、エッジ側の機器制御で重要な役割を果たすことが期待されているリアルタイムOS(RTOS)について解説する本連載。第7回は、IntelのIoT戦略から生まれたRTOS「Zephyr」を取り上げる。

» 2020年11月05日 11時00分 公開
[大原雄介MONOist]

 「Zephyr」なんてリアルタイムOS(RTOS)聞いたことない、という方も多いと思う。かくいう筆者も、「この前まで忘れていた」(なぜ思い出したかはまた後で)。実は、本連載の前にやっていた連載「IoT観測所」の第44回でちょっとだけ触れている。

⇒連載記事「IoT観測所」バックナンバー

⇒連載記事「リアルタイムOS列伝」バックナンバー

「Zephyr」の源流はWind Riverにあり

 Zephyrの源流をたどると、2015年にWind River(ウインドリバー)が発表したRTOSに行きつく。Wind RiverのRTOSといえば、本連載の第3回で紹介した「VxWorks」という認識の方が多いし(筆者もやはりVxWorksが最初に浮かぶ)、他に組み込みLinuxの「Wind Liver Linux」もあるから、これ以上組み込みOSのラインアップを増やす必要がどこにあるのか? と思うのだが、当時のWind RiverはIntel(インテル)の傘下にあり、そのIntelの意向が多分に働いただろう。

 Wind Riverは2015年に、IoT(モノのインターネット)のエンドポイント向けのRTOS「Wind River Rocket(以下、Rocket)」、そしてWind River Linuxよりももう少し軽量なLinuxディストリビューションとして「Wind River Pulsar Linux(以下、Pulsar Linux)」の提供をスタートした(図1)。Pulsar Linuxをもう少し正確に言えば、Wind River Linuxから重要な部分だけを抜き出したサブセットで、ソースではなくバイナリで提供、というあたりがちょっと異なっている。このあたりの経緯は以下の記事をご参照いただきたい。

図1 図1 2015年にWind Riverが発表したIoTソリューションの中で、エッジに組み込むOSとして「Wind River Rocket」と「Wind River Pulsar Linux」がある(クリックで拡大) 出典:Wind River

 Intelとしては、同社の半導体製品を組み込み向けに広く利用してもらうために無償のRTOS/Linuxを用意する必要があり、これがRocketおよびPulsar Linuxというわけだ。現在発売されているIntelの組み込み向けx86製品群はおおむねPulsar Linuxのカバー範囲である。

 ではRocketはというと、Intelが2013年から投入した「Quark」「Curie(Quark SE)」と続く、エンドポイントIoT向けプロセッサに対応したものである。組み込み向け、という意味では他に「Atom」ベースの「Edison」や「Joule」といったシングルボードコンピュータも出していたが、こちらはAtomベースということでRTOSよりもLinuxの方が好ましく、こちらはPulsar Linuxを充てる方向で検討されていた。

 ところがIntel自身がIoT戦略から撤退を決める。2017年にはEdisonやJoule、Quarkを搭載する「Gallileo」といったシングルボードコンピュータの提供を終了し、残った「Curie」はArduino LLCと共同で「Arduino 101」として2015年に発売されるものの、こちらも2017年に販売終了になってしまう。

 この結果として、RocketとPulsar Linuxは宙に浮いてしまうことになった。もともとIntelはWind RiverにRocketとPulsar Linuxを作らせておきながら、自身ではEdison、JouleはYocto Linuxをサポートという妙なちぐはぐさ(Arduino 101についても、Arduino IDEのみが標準対応)があり、それもあって2017年当時でもPulsar LinuxやRocketの知名度は低いままであった。おまけに2018年には、Wind River自身がIntelからTPG Capitalに売却され、Intelの傘下から外れることになった。

 Pulsar Linux自体はまだWind Riverが保有しており、ドキュメントあるいはサポートはあるが、URLを見ていただくと分かるように、既に現行製品にはなっていない。

 一方のRocketについては、Linux Foundationに寄贈され、これをベースに「Zephyr Project」が立ち上がることになった(図2)。Zephyrは、Rocketをベースに同プロジェクトで開発が進められているRTOSというわけだ。

図2 図2 Zephyr ProjectのWebサイト(クリックでWebサイトへ移動)
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