ご安全に! 製造業で「安全」が最優先されるのはなぜ?いまさら聞けない自動車業界用語(8)(1/2 ページ)

今回のテーマは工場運営で1番優先される「安全」です。一見総合職の方には関係ないように思える「安全」ですが、製造業に勤める人、全員が覚えておくべき非常に重要な業務です。

» 2020年11月30日 06時00分 公開
[カッパッパMONOist]

ご安全に! 自動車部品メーカーで働くカッパッパです。
今回のテーマは工場運営で1番優先される「安全」です。
一見総合職の方には関係ないように思える「安全」ですが、製造業に勤める人、全員が覚えておくべき非常に重要な業務です。
なぜ重要か、具体的にどのように守られるのか、そして自動車業界では特に重視される交通安全の取り組みについても説明します。


→連載「いまさら聞けない自動車業界用語」バックナンバー

 みなさんは「ご安全に!」というあいさつを知っていますか。最近ではネットの「現場猫」の画像で流行しており、そこから知られた方も多くいるでしょう。「ご安全に!」のあいさつはもともと鉄鋼業の会社にて用いられてきたあいさつでしたが、近年では建設現場、そして自動車業界、特に工場の現場において使用される機会が多くなっています。

 業種を問わず、製造業の現場では「安全」が何よりも優先します。工場運営では品質、コスト、納期、環境といったさまざまな指標で管理が必要ですが、その中でも1番は「安全」です。ではなぜ「安全」はそれほど大事なのでしょうか。

 「安全」が重要な理由。それは「安全」が損なわれる結果として起こる労働災害、ケガが起こることで発生するコストが非常に大きいからです。人的損害(医療費/就業保証金など)、物的損害(設備の損失/復旧費など)、生産損失(ライン停止損失など)、安全対策費(設備改造費/教育費など)、一度災害が起こると多額の費用がかかります。

 安全は単にコストの問題にとどまりません。ケガが起きるかもしれない不安全な環境で働くことは作業者の心理面に大きく寄与し、雇用の定着率に影響します。コンプライアンスの観点から考えても、安全配慮義務は法律でも定められており、企業の社会的責任を果たす上で「安全」は絶対に守られなくてはいけません。

安全が損なわれることで何が発生するのか(クリックして拡大)

 例えば自動車業界で話題のテスラ。2017年から2018年にかけて米国ネバダ州リノ工場、カリフォルニア州フリーモント工場では労働災害が多発し、適切に労災報告を行っていないという報道がありました。2017年の労働災害発生率は他社よりも3割上回り、労働基準衛生局から検査官が3年で90回以上派遣されている極めて「不安全」な環境にあるといわれていました(通常の工場では検査官の派遣は3年に1回程度です)。

 この汚名を返上すべく、テスラでは他社から安全対策の専門家を招いて、対策を実施。2019年は自動車業界平均より5%下回ったと発表しています。今世界で最も注目される企業のテスラでも安全は非常に重視され、労働環境改善に努めているのです。

 従業員の命と健康を守る。まず何よりも「安全第一」。これはどの会社にとっても順守しなくてはならないルールです。具体的にどのようにして「安全」は守られるのでしょうか。現場でどのようにして「不安全」をなくす取り組みが行われるのかについて説明します。

 「安全」な環境を作り出すためには「不安全」な箇所を洗い出し、事前に対策を打つ必要があります。この活動を「リスクアセスメント」と言います。リスクアセスメントは以下の順に実施されます。

リスクアセスメントをどのように実施するのか(クリックして拡大)

 実際にリスクアセスメントを実施すると非常に多くの危険箇所があり、その全てに対策を打つことは困難です。リスクの高い箇所から対策を実施していき、徐々に改善させ、安全のレベルを向上させていく。これが実際の現場での運用になります。

 現場での安全向上の取り組みとしてヒヤリハット報告も効果があります。有名なハインリッヒの法則では1件の重大災害の裏には、29件の軽微災害があり、さらに事故には至らなかったヒヤリとした、ハッとした事例が300件あるといわれています。実際に体験したヒヤリハットの事例を報告し、見える化することで災害の予防処置が可能になります。

 また災害防止の事前対策として教育も重要です。どれだけ危険箇所を少なくしたとしても、働く人が不安全行動を取れば災害は起きてしまいます。工場で働く際には導入教育を実施し、定期的な危険体感訓練、階層ごとでの指導も実施し、安全意識の高い職場を作ることが必要になります。

 これら事前対策が十分であっても「災害」は起きてしまいます。「安全」は危険が限りなく少ない状態ですが、ゼロではありません。絶対安全は存在せず、ヒューマンエラーも必ず起こります。

 特に起こりやすいのは通常とは異なる作業、「非定常作業」を実施した時です。統計上、重篤災害の7〜8割は非定常作業から発生します。ライン停止や設備改造など通常とは異なる作業を実施した際、人は混乱しやすく、短縮、省略行動を取りやすくなり結果災害につながります。災害の防止のために、作業の前にKY(危険予知活動)を行うことが重要です。

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