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» 2021年04月16日 10時00分 公開

欧州をけん引するポストコロナのデータ駆動型健康戦略「EU4Healthプログラム」海外医療技術トレンド(70)(1/4 ページ)

本連載第57回で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にデジタルで挑む欧州を取り上げたが、今回はポストコロナ時代に向けた欧州連合(EU)の新戦略について紹介する。

[笹原英司,MONOist]

 本連載第57回で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にデジタルで挑む欧州を取り上げたが、今回はポストコロナ時代に向けた欧州連合(EU)の新戦略について紹介する。

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欧州連合が「EU4Healthプログラム」を採択

 2021年3月9日、欧州議会は、COVID-19パンデミックへの対応を踏まえた次世代健康戦略となる「2021-2027年EU4Healthプログラム」を採択したことを発表した(関連情報)。

 本プログラムでは、「より健康な欧州連合になる」というビジョンの下に、以下のような目標を設定している。

  1. 感染症および非感染症の負荷を軽減するために、欧州連合の健康を向上させ、推進する
    • 疾病予防と健康増進(がんを含む)
    • 国際的な健康イニシアチブや協力関係
  2. 重大な国境を越えた健康脅威から市民を保護する
    • 国境を越えた健康脅威の予防や準備、対応
    • 不可欠な危機関連製品の国家備蓄の補充
    • 医療や健康ケア、支援スタッフの予備隊の創設
  3. 医薬品や医療機器、危機関連製品の利用可能性、アクセスのしやすさ、購入しやすさを向上させる
    • 欧州連合における持続可能な生産・サプライチェーンを推奨する一方、医療製品の有効利用を支援する
  4. 強靭性や資源効率を向上させることによって健康システムを強化する
    • 健康データやデジタルツール・サービス、健康ケアの強化
    • 健康ケアへのアクセスの強化
    • EU健康法制や根拠に基づく意思決定の構築と展開
    • 複数国の健康システム間の統合作業

 図1は、EU4Healthプログラムの戦略的方向性を示したものであり、「危機準備」「疾病予防」「健康システムと健康ケア労働力」「デジタル」「がん」から構成される。

図1 図1 EU4Healthプログラムの戦略的方向性(クリックで拡大) 出典:European Commission「Workshop EU4Health Programme 2021: potential solutions for a healthier European Union」(2021年3月24日)

 そして、上記の政略的方向性の各要素に関連するニーズを以下のように整理している。

  • 危機準備
    • COVID-19体験に基づき、どのようにして、国家レベルのサーベイランスシステムを強化するか
    • 新型コロナウイルスの拡大を予防・制御するための既存の健康対策について、どのようにして公からの信頼を向上させるか
  • 疾病予防(がんを含む)
    • どのような種類の協働モデルが、より多くの知識の転送やグッドプラクティス、現場での実装を生み出せるか
    • 予防や診断、資料、ケア、すなわち、がん領域において、全ての市民向け標準規格の提示を、より効率的に支援できるか
  • 健康システムと健康ケア労働力
    • どのようにして、健康システムの強靭性を検証するか、またどのようにして、プライマリーケアや、健康ケア向け労働力のスキル、欧州レファレンスネットワーク(ERNs)の国家システムへの統合を強化するか
    • どのようにして、患者のニーズを考慮した医療機器や医療製品を開発するか
  • デジタル
    • 健康データの品質や健康データの越境フローを向上させるために、何ができるか
    • どのようにして、市民が、デジタルヘルスを通して自身の健康を引き受けるよう、効果的に動機付けられるか

COVID-19危機対応の教訓を踏まえた新組織の整備

 WithコロナのCOVID-19危機対応・準備に関連して、欧州委員会は、2020年11月11日、EUの保健安全保障フレームワークを強化し、危機対応・準備を強化することを目的とする「欧州保健連合(European Health Union)」を提案している。

 欧州保健連合提案では、重大な国境を越えた保健脅威に対する法規制について、以下のような内容を提示している。

  • 準備の強化:国家レベルでの計画の採用、包括的で透明性のある報告・監査フレームワーク
  • サーベイランスの強化:AI(人工知能)およびその他の先進的な技術手段を利用したEUレベルのサーベイランスシステム
  • データ報告の向上:保健システム指標の報告

 また、危機対応・準備の強化策として、既存の欧州疾病予防管理センター(ECDC)や欧州医薬品庁(EMA)に加えて、「欧州保健緊急事態準備・対応局(HERA)」を設置するよう提案している。欧州委員会は、その後2021年2月17日、以下のような行動領域を含む「HERAインキュベーター」を公表している。

  • 迅速な変異種の検知
  • ワクチンの適応
  • EU臨床試験ネットワーク
  • ワクチン試験ネットワーク(VACCELERATE)、規制承認手順、ワクチン生産・物流の規模拡大

 さらに2021年3月31日、欧州委委員会は、以下のようなトピックに関するHERAのパブリックコメント募集を開始した(関連情報)。

  • 医療的対抗策を開発、製造、展開するためのEUフレームワーク
  • 予測的な脅威・リスク評価
  • 緊急事態における新たな対抗策の開発と資金調達
  • 将来のHERAのインパクトや役割、スコープ、調整
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