欧州をけん引するポストコロナのデータ駆動型健康戦略「EU4Healthプログラム」海外医療技術トレンド(70)(2/4 ページ)

» 2021年04月16日 10時00分 公開
[笹原英司MONOist]

ポストコロナ時代の疾病予防は非感染症対策から

 次に、WithコロナのCOVID-19危機対応・準備から、ポストコロナ時代の疾病予防への展開に向けて、EU4Healthプログラムでは、がんや生活習慣病に代表される非感染症(NCDs)に焦点を当てている。

 欧州委員会が2017年に公表した健康状態に関する報告書(関連情報、PDF)によると、死因の上位10位のうち7つをNCDsが占めており、NCDs関連支出が医療費全体の8割を占めるという。そこで、EU4Healthプログラムでは、疾病予防(がんを含む)に関連して以下のような具体策を掲げている。

  • 健康システムが疾病予防と健康増進を促進する能力の強化
  • 非感染症、特にがんのサーベイランス、予防、診断、ケア
  • 政策策定やモニタリングを支えるための質の高い、比較可能で、信頼できるデータの提供
  • インパクトの高い予防プラクティスなど、加盟国間の統合作業の支援

 また欧州委員会は、がんに関連して、2021年2月3日、「欧州がん撲滅計画」(関連情報)を公表し、「予防」「早期検知」「診断・治療」「生活の質(QoL)の向上」の4つの主要活動領域を掲げている。

 本連載第47回で、世界保健機関(WHO)が推進する社会課題解決型のデジタルヘルス介入を取り上げたが、新興国市場のグローバルヘルスにおいても、非感染症領域でのデジタルヘルス技術の有効活用が期待されている。COVID-19において、万国共通のリスク要因となっている糖尿病、高血圧、がんといった非感染症系の基礎疾患をどう予防するかは、ポストコロナ時代においても、重要な課題となっている。

ポストコロナ時代の越境連携を担うEU医療機器規則

 次に、国境を越えた健康脅威からの市民の保護に関連して、EUは、「欧州レファレンスネットワーク(ERNs)」(関連情報)を運営している。ERNsは、欧州地域の医療機関が参画する仮想ネットワークであり、高度に専門化された治療や集中化された知識と資源を必要とする、複雑または希少な疾患および状態に関する議論を促進することを目的としている。そして、具体的な活動として、以下のようなものを挙げている。

  • 患者のケースに関する仮想的な遠隔診療と臨床データ
  • 専門技術(診断および治療)に関するアドバイスと交換
  • 知識の生成
  • 希少疾患に関する研究
  • 教育と専門家のトレーニング

 さらに、医薬品や医療機器、危機関連製品の利用可能性やアクセスしやすさ、購入しやすさの向上に関連して、欧州委員会は、2020年11月25日、「欧州医薬品戦略」(関連情報、PDF)を公表している。

 本戦略では、医薬品領域の課題として、ニーズの増加、供給問題と依存性、品質と安全性、患者中心のイノベーションの推奨、全ての加盟国における競争力と平等なアクセスなどを挙げた上で、以下のような注目領域を掲げている。

  1. 欧州連合域内で不足をモニタリングし、持続可能な生産を推奨する
  2. 臨床試験を向上させる
  3. 査察や調和した標準規格を強化する
  4. 環境における医薬品のリスクを低減する

 医療機器に関連して、欧州委員会は、前回取り上げた「医療機器規則(MDR)」(関連情報)や「体外診断用医療機器規則(IVDR)」(関連情報)を、ポストコロナ時代に向けたEU4Healthプログラムの具体的施策として挙げている。

 EU4Healthプログラムが、治療から疾病予防/健康増進への転換を目標とする中、国際医療機器規制当局フォーラム(IMDRF)の「医療機器サイバーセキュリティの原則および実践」(2020年3月18日最終版公表、関連情報、PDF)や一般データ保護規則(GDPR)、ネットワーク・情報システムのセキュリティに関する指令(NIS指令)などに準拠したサイバーセキュリティ要求事項を組み込んだMDR/IVDRは、院内診療や在宅診療の枠を超えて、健康・ウェルビーイング領域の非医療機器製品・サービスのセキュリティに、どのようなインパクトをもたらすのかが注目される。

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